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「あ、熊井ちゃん笑った!もう元気?」 「うん、何か元気でた!」 千聖は目いっぱい手を伸ばして、自分よりもずっと大きい熊井ちゃんの頭を撫でた。 熊井ちゃんも熊井ちゃんで、ちょっと頭を下げて触りやすいようにしてあげながら、さっきの暗黒顔はどこへやらニコニコしている。 今鳴いたカラスが・・・と思ったけれど、2人が笑い合っているのは何だか可愛いから、そのまま黙って見守ることにした。 ――別の星の人、か。 熊井ちゃんはもう自分で言ったことも忘れて千聖とはしゃいでいるけれど、改めてその言葉を反芻しながら千聖を観察していると、私の中で燻っていた違和感がまた大きくなってきた。 千聖はこういうヒラヒラしたスカートは穿かなかったはず。 千聖はこんな凝ったメイクはしなかったはず。 千聖はもっと大きな声で笑ったり泣いたり怒ったりしていたはず。 「もー!熊井ちゃんウケるぅ!私そんなこと言ってないよー」 のけぞってケラケラ笑う時も、パンチラ防止に足に力が入っている。手はお上品に口元を隠す。 熊井ちゃんを見つめる顔が、何だかお母さんのように優しい気がする。 お母さんて、それじゃあ私と千聖は 「茉麻ちゃん?」 「キャラが被るじゃん!」 「・・・えっ?」 「あっ、ごめん。別になんでもないよ?」 いきなり話しかけられたから、うっかり変なことを口走ってしまった。 よく考えたら、キャラは被らないよね。だって私はお母さんキャラだけど、結構豪快だしガサツだし、今千聖がやってる感じとはまた違う。 「茉麻?キャラが被るって、誰と?」 あ、ヤバイ。熊井ちゃんの興味をひきつけてしまった。こうなると、熊井ちゃんは納得いく説明を受けるまですっぽんみたいに食いついて離れてくれなくなる。 「別にたいしたことじゃないよー。何か千聖とキャラ被ったりしてって思っただけ。」 「ははは、何でー?全然違うじゃん、ねー千聖?」 千聖もケタケタ笑っている。 「だよねー。何か今日の千聖がママっぽいから。でも何か、今日の千聖は女の子らしいからお嬢様ママって感じだね。」 ・・・・・・・・・・・・ あれ? 何か変なこと言ったかな? 千聖が目を見開いて、私の顔を凝視したまま固まった。 「え、ご、ごめん!まぁと被るとかやだった?」 無言で首を横に振る千聖。 「何か言っちゃいけないこと言った?」 「あ・・・ぁの」 急に、千聖の表情が変わった。 ギュッと眉間にしわを寄せて、何かに耐えるように俯いてしまった。 「千聖?ちょっと、本当にどうしたの?」 「ごめんなさい、私」 千聖はいきなり立ち上がると、廊下を走り出した。 「待って!」 私は筋力と瞬発力だけは結構ある。後を追いかけると、千聖はさっきまでいたトイレに駆け込むところだった。 「まーさー・・・待ってよー早いよー」 「先行くから!さっきのトイレね!」 くまくました喋り方と走りの熊井ちゃんをひとまず置いて、私は千聖に専念することにした。 「千聖!千聖!どこ?」 幸いなことに、個室は一個しか鍵がかかっていなかった。 ここにいるんだ。 私は呼吸を整えて、まずは小さくノックをした。 「千聖?ここでしょ?」 「・・・・・・ごめんなさい、私、大丈夫です。」 ・・・喋り方、違ってる。 何だか声も細くて、どう考えても別人だ。 でも今はそれより。 「ねえ、千聖。私なんか気に障ること言ったなら謝るよ。」 「あの、違うんです。茉麻さんは、悪くないんです。」 「まあささんて・・・」 いろいろ聞きたいことはあるけれど、これ以上刺激するのはよくない気がする。かといって、このまま放っておくわけには絶対いかない。 「いた!まーさ!」 そのうちに熊井ちゃんがヘロヘロになりながらもトイレに入っていた。 「千聖、いるの?」 「あっちょっ」 熊井ちゃんはいきなりドアをガンガンたたき出した。 「千聖?ごめんね、私が首絞めたから?」 「ひっ!・・・あの、本当に私、違うんです。友理奈さんのせいじゃありません。」 熊井ちゃんは千聖の言葉遣いに驚いて、怯えた子供みたいな顔になった。 「ま、茉麻・・・何で?ユリナさんって言われた。」 そういわれても、私にもわけがわからない。 「千聖、とりあえず、よかったら出てきてくれないかな。私たちも何が何だか。」 「う、うん。説明してほしいな。千聖。」 ついつい夢中になって、ちょっと大きい声で2人がかりの説得を始めてしまった。 長身の熊井ちゃんに、これまた体格のいい私が、トイレを囲んで騒いでいる。 ・・・・これ、はたから見たらいじめみたいに見えるんじゃなかろうか。 「ちょっと!何してるの!千聖がそこにいるの?」 悪い予感というのはあたってしまうものだ。 独特のキャンキャン声。 振り向くと、トイレの入口に腕組みをしたなっきぃが目を吊り上げて立っていた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ 「おーいいねいいね!岡井ちゃん萌えちゃんとかいってw」 「は、恥ずかしいです私」 白レースをふんだんにあしらったドレスに、ヘッドドレスをつけたちっさーを見て、私は手足両方を使って拍手をした。よく似合ってるのに、自信なさげにもじもじしてるのが可愛い。 「舞美さん・・・あの、私はいいので、何かお召しになっては?」 ああ、そうかあ。自分はキャミとパンツ一枚で、ちっさーをお人形にすることに夢中になっていた。 「あっじゃあさ、ちっさーが選んでよ。私に似合いそうなの。」 私がそうもちかけると、ちっさーは目を輝かせてクローゼットに張り付いた。 スカートやビスチェを私の前にいくつか並べて、なにやら独り言を言いながらクフフと楽しそうに笑っている。 「舞美さん、ちょっと御髪を。」 ちっさーが両手を私のうなじにまわして、髪をハーフアップになるように軽く持ち上げてきた。 ちょっとぷくっとふくらんだ小麦色の二の腕と、子犬みたいなキラキラ黒目を見ていたらふとイタズラを思いついた。 「ちっさー。」 名前を呼ぶと、ちっさーはキョトンと目を開いて動きを止めた。 私の髪を持ったまま固まった手首を捕まえて、思いっきり引き倒した。 「きゃっ!」 「うっひゃー助けてー!お嬢様におーそわーれるー!とかいってw」 あおむけに寝っころがった私の上に、ちっさーが倒れこんでいる。 「お、襲っ!?そんな、私」 赤くなったり青くなったりして、ちっさーはおろおろしだした。体を離せないように腕を掴んでいるから、あわててジタバタする可愛い姿を堪能できた。 この遊びは一部(栞菜とえり)には大好評だけれど、まだちっさーにやったことはなかった。(ちなみに残りの人たちにはマジ説教されたり気まずくなったり首絞められそうになったり) 期待通りのリアクションを見れて大満足だったので、体を開放してあげようとした。 「あはっもう冗談冗談、もういいよちっさー・・・・・ちっさー?」 手を緩めたけれど、ちっさーはそのまま仰向けの私の顔を真顔で覗き込んでいる。あ、こう見るとやっぱりイケメンだな岡井少年は。 と余計なことを考えていると、いきなりちっさーの手がキャミの肩紐をペロンと剥いだ。 「うおっ!」 「が、頑張ります私」 遠慮がちに私の手を押さえて、どうにかキャミを脱がそうとしているみたいだ。 「ちょ、ちっさー!」 そうだ、さっきちっさーは「珍しいことは何でも経験してみたい」とか言ってたんだった。 しかもお嬢様ちっさーはなっきぃ並みに何でも本気にしてしまうタイプだった。 ということは、今は一生懸命変質者になろうとしているのか。 「ちっさー冗談だってば!こら、聞いてるのかっ!」 私が体をひねると、バランスを崩したちっさーは短い悲鳴を上げて胸に飛び込んできた。 「そんな悪い子にはお仕置きだ!とかいってw」 「ま、舞美さん!あっあっそんな・・・」 カタン ドアの前で物音がして、振り向いたらお兄ちゃん(次男)が立っていた。 ―紅茶のおかわりを ―持って行くように言われ ―たの ―です、が あとずさりとともに徐々に声が遠くなって、静かに扉が閉まったと思ったら階段から人が落ちるすさまじい音がした。 ほぼ下着姿の妹がゴスロリ服の小さな美少女に押し倒されていて、反撃にスカートに手を突っ込んでいたらそれは驚くだろう。 ごめんね、お兄ちゃん。でも誰にも言いませんように。ていうかいつから見られてたんだろう。 「・・・さ、そろそろ服選びの続きしようか、ちっさー。」 「・・・そうですね。」 次へ TOP
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「あっ違う星って言っても、本当は私も千聖も地球人だってわかってるよ。でも、今までと違うっていう意味で」 「いや、そこはわかるから。」 熊井ちゃんはせっかく面白い例えを使うのに、変に生真面目だから、わざわざ説明をしないと気がすまないみたいだ。 うまく誘導しないと、こうやっていつまでたっても本題に入らなくなってしまう。 「何か、今までの千聖は思ったことは全部ポンポン言ってたのに、今は一度立ち止まって考えてから喋ってる気がする。話の内容はそんなに変わってないんだけど、あんまり暴走してないっていうか。」 ちょっとつまんなそうに、熊井ちゃんは口を尖らせた。 「私も結構そういうとこあるし、千聖はこっち側の人だと思ってたんだけどな。仲間が減って残念。何で変わっちゃったんだろう。・・・ねえ、聞いてる?」 空いてる部屋や控え室、自販機の近くのベンチなんかを探索しながらフンフンと生返事をしてたら、わき腹にチョップを食らった。 「うわうわっ、聞いてるよ!多分、熊井ちゃんがそう思うなら本当に変わっちゃったんだよ。熊井ちゃんだって、ちゃんと千聖のこと見てるんじゃん。優しいね。」 「嘘、本当に?嬉しいなぁ~」 熊井ちゃんは小さいことでも顔をくしゃくしゃにして、大きい赤ちゃんみたいに喜んでくれる。 ちょっと曇りに差し掛かっていた私の心も、この笑顔で簡単に快晴になった。 「もも、いないね~」 「楽屋も見てみる?でもちょっと遠いし先に他のとこ・・・あれ?ちょっと、熊井ちゃん隠れて」 私たちは近くの部屋に飛び込んで、隙間から頭だけ覗かせた。 すぐ前のトイレから、千聖が出てきたところだった。 もっと近くのトイレ行けばいいのに。 ウ●コ?と思ったけれど、熊井ちゃんはこの手の下ネタにマジギレすることがあるから、とりあえず黙っておくことにした。 「千聖、戻らないのかな?」 千聖はなぜか引き返さずに、みんなのいる部屋とは反対方向に歩いていった。 「わかった、多分うちらと一緒だよ。もものこと探してるんじゃない?」 「そっか!じゃあせっかくだし一緒に行きたいよね。茉麻、ちょっとシーッね。」 熊井ちゃんはいたずらを思いついた時のわくわくした顔になって、抜き足差し足で千聖の後をつけはじめた。 でも身軽で早足な千聖と、のんびり屋の熊井ちゃんでは、全然距離が縮まらない。 だんだん苛々しだした熊井ちゃんは、少しずつ大またになって競歩みたいな足取りで、千聖を追いかける。 「熊井ちゃん、バレちゃうよ。」 私の小声とほぼ同時に、気配に気づいたのか千聖がふと足を止めた。 「だーれだ!!」 振り向かれる前に、と慌てた熊井ちゃんが、千聖に手で目隠しをした・・・・はずだった。 「んぎゃんっ!」 千聖が瀕死の小犬のような声をあげた。 「あっ!やだ、違う!」 何事!?急いで千聖の前に回ると、熊井ちゃんの長い指が思いっきり顎と喉の境に食い込んでいた。 かなりの長身の熊井ちゃんと、ちっちゃい千聖では身長差が30cm近くある。 慌てたのと、うまく位置を掴めなかったせいで、目標よりだいぶ下のほうを捉えてしまったみたいだ。 「ひーん、どうしよう!千聖ごめんね、息できる?大丈夫?」 「ケホッケホッ・・・え、えと、ふわぁっ」 慌てた熊井ちゃんは、半泣きで首から手を離して肩をガクガク揺さぶった。 千聖は目を白黒させている。 「熊井ちゃん、とりあえず落ち着いて!ゆすっちゃ駄目だよ。」 熊井ちゃんはイマイチ自分の体のことをわかっていない。 舞美ちゃんみたいなスポーツ系じゃないとはいえ、十分上背はあるんだから、加減しないと思わぬ事故が起こるんだ。そう、今みたいに。 「やだーやだーもう!どうしよう、痛かったよね?」 「う、ん?びっくりした・・・ケホッ」 「ごめんねー、千聖。ジュース奢るから、ちょっとまぁたちに付き合ってくれる?」 パニックになってる熊井ちゃんを落ち着かせたかったので、とりあえず3人連れ立って自販機まで戻ることにした。 「はい、紅茶でいい?」 ベンチに座っている2人に、紙コップのミルクティーを差し出す。 「う、うん。ありがとう。本当にいいの?私お金払うよ。」 「いいって。びっくりさせちゃったお詫びで。」 千聖の喉元は真っ赤になっている。慌てた熊井ちゃんが全力でさすってあげたのかもしれない。 困惑した顔でカップに口をつける千聖は、横にいる熊井ちゃんを何とか励まそうとしているみたいだ。 「熊井ちゃーん。千聖は大丈夫だよ?びっくりして変な声出しちゃっただけ。」 熊井ちゃんは声もなくがっくりと肩を落としている。 整った顔立ちの熊井ちゃんは、黙っていると少し怖い感じになる。 その顔で落ち込んでいると、まるでこの世の終わりみたいな悲愴な表情になってしまう。 「本当だよ・・・別にそんなに落ち込まなくても。」 「だって私、こんな小っちゃい千聖に」 「「1歳しか違わないよ!」」 突っ込みが綺麗に綺麗にそろった。 「ク゛フフッ」 「あはっ」 いいなあ、この感じ。 千聖と私はこういうしょうもないことのタイミングがよく合う。 さっきは千聖が変わっちゃったなんて思ったけど、このノリが消えてないならまあ別にいいかな。 熊井ちゃんも私たちの方をチラッと見て「ふへっ」と少し笑った。 戻る TOP 次へ
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「いくら熊井ちゃんと茉麻ちゃんでも、千聖をいじめたら絶対許さないから!」 鼻息荒く、なっきぃが私たちのところまで歩いてきた。 「ちょっと待ってよ。イジメなんてしてない。」 カチンときて、思わず千聖のいる個室の前に熊井ちゃんと一緒に立ちはだかってしまった。 「なっ・・・!それなら千聖に会わせてよ!そ、そんな大きい二人で立ちはだからないでよぅ。」 少ししり込みしながらも、なっきぃは怯まずに私たちを上目で睨んできた。 「聞いて、なっきぃ。千聖さっきまで私たちと普通に話してたのに、急に言葉遣いが変わって、ここに逃げちゃったの。 だから私たち追いかけてきたんだよ。何か誤解させちゃったみたいだけど、いじめてないよ。」 とにかく、落ち着いて説得しないと。 なっきぃは完全に頭に血が上ってしまっているから、ちゃんと目を見て、ゆっくりと喋りかけた。 「・・・・そうだったの。ごめん、なっきぃの勘違いだね。そっか、千聖変な言葉づかいしてたんだ。3分ルールだもんね。」 3分?何のことだろう。 なっきぃはとりあえず納得してくれたみたいだけれど、今度はなぜかしょんぼりした顔になってしまった。 「あの、なっきぃ。そんな顔しないで?それより、千聖はなんであんな」 「ちょっとなかさきちゃん!私は千聖のこといじめてないよ!イジメとか大ッ嫌いだもん!あと大きい2人って言わないでよ!」 「もうっそれはわかったってば!でも、大きいのは現実でしょ!」 ・・・熊井ちゃん、もうその話は終わったよ。 何とか励まそうとしていたら、ひどいタイミングで熊井ちゃんがなっきぃに反論し出した。 そのおかげでなっきぃはまた元気を取り戻して、熊井ちゃんとおかしな言い争いを始めた。 どうしたもんかと視線をトイレの個室に戻すと、ほんの少しだけドアが開いて、千聖がこっちを伺っていた。 「千聖!!」 私の声に驚いて、千聖がドアを閉じようとする。 駄目! 私は悪徳セールスマンのように、足をねじ入れて無理矢理中に押し入った。 千聖はポカンと口を開けて、私の顔を凝視している。 「あ・・・」 「ごめんね、ちゃんと顔見たかったの。」 こんな狭くて暗い場所で、ずっと泣いていたのかもしれない。 目じりが赤く腫れて、下まつげが心なしか湿っているような気がした。 「ちょっと!茉麻ちゃん何やってんの!開けてよ!」 「何で茉麻も入るの?外で話せばいいじゃんー」 外の2人はいきなり徒党を組んで、思いっきりドアを叩いてきた。 狭い個室だから、予想以上にグワングワンと音が反響する。 こんなことやられて、怖かったよね。ごめん、千聖。 「茉麻さん・・・」 喉から搾り出すような声で、千聖が私を呼んだ。 その表情があまりにもいじらしくて、私は思わず千聖を抱き寄せた。 「千聖、まぁはいつも千聖の味方だから。もう何にも言わなくていいから、それだけは覚えておいて。」 「っ・・・・」 わずかに首を縦に振ったあと、千聖の体が小刻みに震えた。 「ごめんなさい・・・」 今は、腕の中で泣きじゃくる千聖を抱きとめてあげることしかできない。 それでもいい。 どんな千聖でも、私がいつでも両腕で受け止めてあげたい。 その気持ちが千聖に少しでも伝わるように、抱きしめる腕に力を入れた。 「・・・・茉麻さん、ありがとうございます。もう大丈夫です。」 しばらくすると、千聖が顔を上げて笑いかけてきた。 「うん、よかった。・・・あ、千聖。今更なんだけど、もものことどうする?ちょっと時間経っちゃったね。」 「あの、できたら、私一人で桃子さんのところに行きたいんです。・・・本当は、茉麻さんにお話しなければいけないことがたくさんあるのですが、今は先に桃子さんのところに行かないと」 「わかった。」 もう外の2人はドアを叩くのをやめて、またなにやら2人で論争を繰り広げている。 千聖の肩を抱いて外に出ると、一斉に私たちに視線が向けられた。 「千聖!大丈夫?さ、早く戻ろう?」 「早貴さん・・・来てくださってありがとう。でも私、ちょっと行かなければならないところがあるんです。」 千聖はやんわりと拒否するけれど、心配性ななっきぃはなかなか引き下がらない。 「じゃあ、なっきぃも一緒に行く。」 「待って、千聖は一人で行きたいんだってさ。」 私がなっきぃを引き止めている間に、千聖は一礼して廊下を駆けていった。 「千聖ぉ・・・」 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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千聖大好きっ子の舞ちゃんに、千聖を悪の道から救い出そうとしてるなっきぃ、明らかに面白がってる愛理。 どんな恐怖映像が世に出回るかと思ったけど、撮影中はわきあいあいとソフトクリームを食べたり、牛や羊と戯れる平和な時間を過ごすことができた。 なっきぃが赤いマントを羽織って、「オーレィ!」と牛を挑発しながら私の方へ駆け寄ってきたことは忘れることにしよう。 すぐに予定の時間が過ぎて、ふたたびちさまいみかんなと合流するために、広場へ戻った。 3人はもうジャージから私服風の衣装に着替えて、楽しそうにまたバドミントンをやっていた。 「キュフフ、体力あるねー。」 「あ、お帰り!牧場どうだった?こっちはねー・・・」 舞美がなっきぃ舞ちゃんと話し初めて、愛理と栞菜が木陰に移動したから、私は必然的に千聖と2人になる。 「アスレチック、楽しかった?」 「ええ、とても。3人で競争もしたんですよ。舞美さんたら、私がロープを使って登っている時に、わざと揺らしていたずらするから怖かったわ。私も後で、栞菜と一緒にお返ししちゃいました。ウフフ」 ほわんほわんなお嬢様の千聖だけれど、やっぱり根っこはスポーツ大好きっこ。目を輝かせて喋る顔は、無邪気で可愛らしかった。 「今度、えりかさんも一緒にやりましょう。タイムトライアルが楽しかったわ。みなさんとプライベートで来ても面白そう。」 千聖、長い付き合いじゃない。いい加減私の運動神経をなめてもらっちゃ困る。 ロープのうんていを、腕の力だけで進む。 下に待ち受けるのはシザーなっきぃの大群。よーい、スタート! ウチだってやればできる!信じれば夢は叶うよ! と思ったけど二本目で落下する私。 落ちたよー、えりこちゃん、落ちたよーキュフフフフフ・・・・・ 「えりかさん?」 「はっ!・・・そ、そうだね機会があったらね。」 千聖は私の答えに満足して、話題を変えた。 「えりかさんたちは、何を?」 「えーと、ヤギ触って、牛触って、乳搾りしたんだよ、乳搾り。こう、ニキ゛ニキ゛ニキ゛って。」 私はわざと千聖の胸の前で、手をゆっくり閉じたり開いたりして挑発してみた。 恥ずかしがる姿を楽しもうと思ったのに、千聖はしばらくポカンと口を開けて、私の手つきに見入っていた。 だんだんと目がトロンとなって、唇がかすかに震え始める。 ちょ、そこまで興奮しなくても! 「ちちしぼり・・・」 「さーーーーーてと!!!次は後半の撮影だよ!!さあ行きますよ2人とも!」 千聖が妙に湿った声で呟いた瞬間、なっきぃが大音量で私たちを引き剥がしにかかった。 「なっきぃはりきりすぎー!そんなにおなかすいたの?とか言ってw」 「いいの!さあ、またグループ分けしよう!」 反復横とびみたいな動きで私と千聖をさえぎるなっきぃ。 舞美が千聖を連れて行ったのを確認すると、ゆっくり私に向き合った。 「あ、ちょ、ちょっとふざけすぎた・・・ってなっきぃ?何やってるの?」 なっきぃは私がさっき千聖にしたみたいに、私の胸の前で2,3回手をもにゅもにゅさせた。・・・と思ったら、 「ひええ!!」 いきなりその手を力強く閉じて、私のエアーおっぱいをぐしゃっと握りつぶした。 「・・・キュフフ、えりこちゃん。なっきぃはいつも、千聖のこと見守ってるんだからね。忘れないでね。」 なっきぃはそう言うと、いつもの可愛いなっきぃスマイルに戻して「じゃあ、早くみんなのとこ行こう!」と私の手を取った。 こ、怖い。ずっと怒られてるならともかく、こうメリハリを付けられると、恐怖感は倍増する。 今日の夜はさっき焦らしてしまった分、たっぷり楽しもうと思ったのに、 この分じゃ舞美あたりをけしかけて「えり!ちっさー!UNOやろう!」「トランプ!トランプ!」「ガールズトーク(笑)しようよ」とコテージを襲撃してくることは間違いなさそうだ。 ああー・・・私だって結構、楽しみにしてたのに。 さっきとは別の意味で落ち込んでるうちに、いつのまにかご飯係の班分けは終わっていた。 「えりかちゃん、私たちカレー作る係だよ。愛理も一緒。よかったー、どうしてもお姉ちゃんに話したいことがあったから。愛理になら、聞かれてもいいし。」 栞菜が嬉しそうに話しかけてくる。愛理は相変わらず、S入ったイタズラな目つきのままだった。 「あ、舞ちゃんと舞美ちゃんはご飯炊くんだって。千聖はなっきぃとアイスとバター作るんだよ。さっきえりかちゃんが絞った乳で、千聖がね。ケッケッケ」 ちょっとあーた!敵なの!味方なの!? 相変わらず読めない表情で、「野菜もらってくるねー」と、私たちを置いてどこかへ行ってしまった。 「私たちも調理器具とかもらってこようよ、えりかちゃん。」 「そうだね。あ・・・ねえ栞菜、話したいことって、なーに?気になるから、撮影始まる前に聞いときたいんだけど。」 私がそう切り出すと、栞菜は人差し指で「シーッ」のポーズを取って、急ぎ足で調理器具置き場まで移動した。 「どうしたの?相談事?」 周りを警戒しながら、栞菜はお鍋や包丁を選んでいく。 「私、決めたよお姉ちゃん。」 「うん?」 「ちっさーとえりかちゃんのこと、いろいろ悩んだんだけど。」 「え・・・?」 「でも、応援するから。」 応援、て。 ガバッと顔を上げた栞菜は、妙に明るい顔をしていた。 経験上、こういう表情の時の栞菜は要注意だ。 「ごめん栞菜、応援って、一体何を言って」 「私、2人の恋を応援するから!」 「・・・・・・は?」 私の手から落ちたお鍋のふたが、クワンクワンクワンと大きな音を立てた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「舞美!あたしたちの7年の友情はこんなもんなの!?」 暗雲立ち込める楽屋の中で、ちぃの怒号が響き渡る。 「千奈美、待って」 「そんなに私って信用ないの?いつもヘラヘラしてるから?」 ふだん明るくてにこにこしてる人が怒り出すと、本当に怖い。 まるで時間が止まってしまったように、誰も動かない。 「ごめん、そうじゃないよ。すごく複雑なことだから、まだベリーズには言ってないだけで」 舞美ちゃんの説明が、余計にちぃをいらだたせたみたいだ。 「嘘!私以外全員知ってるんでしょ!そんな、そんな大事なことなら、何で私だけ」 「いや、私も多分知らないけど。」 「私も。」 「・・・あ、そ、そうなの?」 みやとキャプテンが割って入ったら若干トーンダウンしたみたいだ。 こっそり茉麻の顔を伺ってみると、すごく強張っている。 さっき私がカマをかけた時はとぼけていたけど、間違いない。茉麻はあの千聖のことを知ってしまっている。一緒にいた熊井ちゃんも、多分。 千聖本人が今ここにいないから、何がどこまでどうなってるかはわからない。 だけどおそらく、みんなのリアクションからしてちぃたち3人以外――多分桃ちゃんも、すでにお嬢様キャラのことは知ってしまっているんだと思う。 うまくいかないな。キュートの中だけで内緒にしておきたかったのに。 ベリーズのみんなを信じてないわけじゃない。でも、私にとって千聖じゃないあの千聖を、みんなに認知させてしまうのは嫌だった。 いずれは元の千聖に戻ってもらいたいからああして仲直りをしたわけで、私は彼女を岡井千聖と認めたわけじゃないんだ。 「・・・舞美、私もちょっと悲しいよ。うちらリーダーとキャプテンで、いろいろ相談しあってきたじゃん。どうして今回に限っては何も言ってくれないの?」 「待って、舞美のこと責めないで。これはキュート全員で決めたことだから。」 「えり・・・」 「もう、いいじゃん舞美ちゃん。」 その時、ずっと黙っていた愛理が口を開いた。 「隠しきれないよ。・・・ていうか、隠すことじゃないよ。誰も千聖を拒んだりしないと思う。私たちだって、そうだったじゃない。」 愛理の横で、梨沙子もコクコクとうなずいている。 「・・・あのさ、うちと熊井ちゃんも本当に断片的なことしか知らないんだ。だから、もし良かったら、何があったか教えてほしいな。」 「そうだねー。何でゆりなさんって言ったのか気になる。」 「そか、うん・・・そうだよね、みんなちっさーのこと心配してくれてるんだよね。」 何。 何、この流れ。 「ちょっと待って舞美ちゃん!」 「舞ちゃん、もうだめだよ。」 妙に落着いた愛理の静止が勘に触る。 「ダメって何が?愛理は元の千聖より、あの千聖の方が好きなんだろうけど私は違うの。私の千聖はあの千聖じゃないんだよ。今の不自然な千聖を、わざわざみんなに広めることないじゃん!」 「不自然って何、舞ちゃん。舞ちゃんがどれだけ望んだって、もう前の千聖は戻ってこないのかもしれないんだよ。私は舞ちゃんと違って、どっちの千聖の方が好きなんて思わない。どっちも好きだよ。勝手に決めないで。」 愛理からの思わぬ反撃で、私は少しひるんだ。でもここで言い負かされるわけにはいかない。 「愛理なんかに何がわかるの?私がどれだけ千聖のこと大好きなのか、愛理には絶対わかんないよ。私はずっと、千聖の横にいたの。いっぱいケンカしたけど、ずっとずっとずっと千聖の側にいたのは私なんだから。私はまだ元の千聖に話さなきゃいけないことがいっぱいあるの。 あの千聖に話すんじゃ意味ないの。」 「・・・・舞ちゃんは勝手だよ。ああやって無茶をさせてるせいで、千聖はずっと苦しんでいるんだよ。夢の中でまで辛い思いをしてる千聖の気持ちはどうでもいいの?それに、あの事故が起きたのだって」 「・・・もうやめてよ、2人とも・・・・!こんなのやだ・・・・」 エスカレートする私たちの言い争いは、頭を抱えて座り込んだ梨沙子によって中断された。 「あ・・・・あのー・・・・・舞、ちゃん・・・?」 すっかり気をそがれたちぃの間の抜けた声が、すすり泣く梨沙子の声とともにむなしく部屋に響いた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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千聖と離れた私は、しばらく舞美ちゃんやちぃたちとバカ話で盛りあがった。 時々聞こえる千聖の楽しそうな声が、私を安心させてくれる。 「何か舞ちゃん、大人になったよね。」 「そう?まあ、いろいろあったから。」 「うん、舞は本当によくできた妹だよ。心も外見も急成長した!舞は最高にいい妹だね!」 「・・・・恥ずかしいから2回も言わないでいいよ。」 考えてみれば、千聖が頭打ったあの事件から、まだ1ヶ月もたっていない。 喜怒哀楽の全てをフル活用した、あまりにも中身の濃すぎる数週間だった。 「ねー、もうそろそろお開きにしませんか!あんまり遅くなると中学生組はお父さんお母さんも心配しちゃうだろうし。」 30分ぐらいして、キャプテンが大きな声でみんなに呼びかけた。 「えー」 「えー、じゃないの。またすぐ会えるんだから。早くお菓子片付けよう。」 チョコやクッキーはみんなで山分けして(ポテチの残りは舞美ちゃんがなっきぃにカ゛ーッした)、ゴミをまとめると、急ぎ足で部屋を出た。 ベリキューそれぞれのロッカーで荷物を持って、大階段のあたりで再び合流する。 「いい?行くよー」 まるで集団下校みたいだ。舞美ちゃんとえりかちゃんが先頭で、一番後ろはキャプともも。 私と千聖は前から2番目。後ろには茉麻となっきぃがいた。 年長組に挟まれて、みんなでキャーキャー言いながら階段を降り始めた。 「あ・・・嫌だわ、私ったら。いただいたお菓子、ロッカーに置いてきちゃった。」 私が手に提げていたお菓子の袋を見て、千聖が声をあげた。 「また今度でいいんじゃない?レッスンすぐあるし。」 「でも・・・明日菜たちにおみやげで持って帰りたいの。すぐに追いかけるから、私ちょっと戻ります。」 千聖はそういうと、くるっと後ろを振り返った。 「茉麻さん、ちょっとごめんなさい。私・・・」 「えっ!?」 茉麻は私たちに完全にお尻を向けて、後ろ歩きしながら熊井ちゃんとおしゃべりしていた。 急に話しかけられてびっくりしたんだろう、若干オーバーリアクション気味に、体全体で思いっきり振り返った。 茉麻のほうへ駆け寄っていった千聖の胸のあたりに、いきおいよく茉麻のひじがぶつかった。 「あ」 「あ」 「あ」 何人かの唖然とした声が重なる。 デジャヴ。 こんな光景を、私は知っていた。 もっとずーっとずーっと昔、茉麻に飛びつこうとした千聖が、振り返った勢いで吹っ飛ばされてしまった事件があった。 私は直接見たわけじゃないけれど、あとでビデオかなんかで見て、おなかが痛くなるほど大笑いしたからよく覚えている。 もうあんなに子供じゃないけれど、千聖はやっぱり体が小さいし、茉麻は大きい。 驚いた顔のままの千聖が、階段から押し出されて宙に浮いた。スローモーションのように、体が倒れていく。 「危ない!」 舞美ちゃんの大声で、私の時間感覚は元に戻った。 階段から落ちかけた千聖を、舞美ちゃんが両腕で抱きとめた。 千聖をかばったまま、2人は階段の一番下に落ちてしまった。 「千聖!!!!」 私は自分の口から、こんな金切り声が出たのを初めて聞いた。 もう大事な人を失いたくない。恐怖で足がガクガク震えて、座り込んでしまった。 「舞美!千聖!」 茉麻が真っ青になって、2人のところへ走っていく。 「ごめん、私・・・!」 「えっ何?どうしたの?」 「落ちたの?大丈夫?」 後ろの方のみんなも、人が落ちる鈍い音に驚いて集まってきた。 「舞ちゃん、立てる?」 肩を貸してくれたなっきぃの体も震えている。 「舞美・・・・」 「・・・・イタタタ・・・背中打ったー・・・。一瞬息止まったんだけど」 しばらくして、舞美ちゃんが照れ笑いしながら、体を起こした。 「平気なの?舞美。」 「うん、もうあと5段ぐらいだったから。なんてことないよ。それより・・・よかった。今度は守れた。」 舞美ちゃんは優しい顔で、千聖の体を抱きしめなおした。 でも 「・・・・ちっさー?ちっさー?・・・・・どうしよう、ちっさー、どこか打ったのかもしれない。起きないよ。」 舞美ちゃんの腕の中の千聖は、目を閉じたまま全く動かなかった。 「舞ちゃん?」 大切な人を失う恐怖で、体から力が抜けていく。 「・・・私、マネージャー呼んでくる。」 「私も。」 愛理と栞菜の声が遠ざかっていくとともに、私の意識もゆっくり遠のいていった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「だから!おっとりして上品になっただけで、基本的な性格はそんなに変わってないんだってば!」 「それじゃよくわかんないってばー。じゃあさ、好きな食べ物とか変わったの?あと何だろう好きな・・・好きな・・・Tシャツ?」 「ええ!?」 「熊井ちゃん、それどうでもよくない?」 「本当だよ!思いつかないなら無理矢理質問しないでよ!」 「なんだーなかさきちゃんのケチ!」 「意味わかんないよ!」 「なっきぃ、それはまあいいとして、この事って他に誰が知ってるの?キュートのマネージャーさんは?スタッフさんは?ていうか、千聖の家族は?」 「あと犬!千聖んちの犬は知ってるの?パインと・・・リップスティックだっけ。リップスティックってすごくない?名前。面白いよねーあはははは」 「熊井ちゃん犬は今いいから。でさ!なっきぃ」 「もう!また顔近い近い!大きい二人で責めないでよぅ!」 ドアを少し開けてすぐに聞こえたのは、なっきーのキャンキャン小型犬ボイスだった。 そこに熊井ちゃんのくまくまボイスと、茉麻の突っ込みが重なる。もはやトリオ漫才だ。 「ていうかね舞美、よくわからないんだけど。そもそも千聖は、どうしてお嬢様キャラになったの?記憶は?前とは別人?」 「えっえっ・・・・ちょまって。ごめんなんか私混乱して・・・別人、じゃないと思うけど」 「やっばいウケるんだけど。千聖お嬢様ー☆とか呼んだ方がいいのかな。ていうかやっぱり私のこと千奈美さんって言ってきたりすんの?千聖が!あの!千聖が!超ー面白くない?桃も桃子さんって言われたんでしょ?マジウケるわー」 「・・・徳さんテンション高すぎ。」 どうやら千奈美だけはこの状況を楽しんでいるみたいだ。何をそんなにはしゃいでいるのかわからないけれど、困った顔で固まっている舞美ちゃんを放って、今日は険悪状態だったはずのももちゃんにまで話しかけている。 「あー・・・それでね、別に接し方は前と同じで大丈夫だよ。ウチも最初どうしようかと思ったけど。」 「了解ー。でもびっくりだね。そんなこと本当にあるんだ。大丈夫かな、上手く接していけるか心配かも。」 「わからないことは、千聖本人にも聞いてみるね。ベリーズが何でも協力するから。」 えりかちゃんにみやにキャプテン。こちらは比較的落ち着いて、しっかり話をしている。 愛理と栞菜はまだク゛スク゛ス泣いている梨沙子を励ましているみたいだし、どうやらえりかちゃんたちのグループが一番頼りになりそうだった。 個人的にまだ気まずさが残っていることもあって、まずはこの3人に話しかけてみようと思った。 でも 「えりか・・・」 「あーーー来たー!ちょっとー遅いよー!」 部屋に踏み込んだ瞬間、千奈美が飛びついてきた。 「みんな心配したんだよー舞ちゃん。ほら、入って!お・嬢・様も!」 「・・・ごめんね。」 テンションMAXに見えても、やっぱり千奈美は年上なだけあって、ちゃんと私のことまで気遣ってくれた。 「おかえり、舞。ちっさー。」 「よかったー!舞ちゃん千聖と会えたんだね。」 私が戻ってきたことで皆が凍りついたらどうしようかと思ったけど、千奈美が勢いをつけてくれたおかげで、ごく自然に輪の中に加わることができた。 「愛理。」 私は千聖と小指をつなげたまま、愛理のところまで歩いていった。 まずやらなければいけないこと、それは 「さっきは、ごめん。」 拒んでしまった愛理の手を、私からつなぎに行くことだった。 「舞ちゃん・・・ううん、こっちこそ。」 愛理は私の手を強く握り返してくれた。どこからともなく湧き上がる拍手。 ちょっと、いやかなり照れくさくて、2人で顔を見合わせて笑ってしまった。 愛理は千聖のことが大好きで、私も千聖が大好き。私は愛理のことが大好きで、愛理もきっと私のことを。 それさえわかっていれば、もう余計なことは何も言わなくても十分だった。 「あ・・・それ黄色い糸だね、千聖。舞ちゃんと千聖の糸でしょ。」 ちょっと赤い目のまま梨沙子がはにかんだ。 「ええ。梨沙子さんが教えてくれた魔法で、復活した糸なのよ。」 「えへへ・・・魔法かあ。へへっ。」 本当に、千聖は人を喜ばせるのが上手だ。 魔女ッ子志願の梨沙子には、とても嬉しい言葉のようだった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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RKB/012 C 恥ずかしがる智花/雨上がりに咲く花(シャイニー・ギフト) 女性 パートナー ご挨拶 智花/雨上がりに咲く花 女性 レベル 1 攻撃力 2000 防御力 4000 【バスケは好き。でも一番大切なのは、5人でいられる場所だから……】《スポーツ》《リーダー》 【キャンセル】【起】〔手札〕[このカードを控え室に置く]→あなたのベンチの〈雨上がりに咲く花〉が2枚以上なら、あなたは相手の、【スパーク】か【キャンセル】の技を1つ選び、無効化する。 作品 『ロウきゅーぶ!』
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どれぐらいの間、こうやって一人でいたんだろう。 物音一つしない部屋では時間の感覚はどんどん奪われて、全く見当がつかない。 私はこのままずっと、ここに閉じこもっていた方がいいのかもしれない。それがベリーズとキュートのためだと思った。 “千聖の気持ちはどうでもいいの?” さっきの愛理の言葉がずっと胸に突き刺さっている。 元に戻ることこそが、千聖にも私たちにとっても一番いいことだと信じていた。 みんなで力を合わせれば、必ず元の千聖になってくれると思っていた。 千聖の今の状態が永遠に続くなんて考えたくなかった。 必死だった。 舞美ちゃんと一緒に千聖に関するマニュアルを作ったり、マンツーマンで元の千聖の振る舞いを教えたり、どうにかして私の千聖を取り戻したかった。 そこに今の千聖への思いやりは存在していなかった。 どんなひどい仕打ちも微笑んで許してくれていたのに、私は。 前の千聖と同一人物だって認められなくても、例えば新しいメンバーを迎えるような気持ちで、もっと優しく接してあげることぐらいはできたはずだ。 そうすれば、ゆっくりでも私はあの千聖と自分なりにしっかり向き合えたかもしれない。 「何でこんなことになっちゃったんだろう。」 今頃みんなは千聖を囲んで、これからのことなんかを話し合ってるかもしれない。 キャプテンはもちろん、面白い好きもののちぃや意外と面倒見のいいみやも、すぐに新しい千聖になじんでいくだろう。熊井ちゃんも、茉麻も、梨沙子も、ももちゃんも、千聖にとって一番いいことをキュートのみんなと一緒に考えてくれるはずだ。 自分の気持ちを優先していたのは、私だけ。 そんな私に、千聖のことを偉そうに主張する権利はない。 「千聖・・・・」 手を見つめれば、さっきの千聖の体温がよみがえる。 もう一度千聖に触れたい。 前の千聖に戻らなくても、千聖が千聖であることを確認させてほしい。 忘れることなんてできないけれど、私に前へ進む勇気を与えて欲しい。 その時、うつむいていた私の視界が急に翳った。 顔を上げる。 「嘘・・・・・・・」 どうして。 どうして、私の居場所がわかってしまうんだろう。 どうして、私が今一番望んでいることがわかってしまうんだろう。 あんなにたくさん傷つけたのに、どうして。 「舞さん。」 いつもと変わらない、穏やかな顔をした千聖が立っていた。 半月型の優しい瞳が、私を見つめる。 先の丸っこい可愛い指が、私の前髪をいたわるように撫でる。 「何でここがわかったの?」 「・・・自分でもわからないわ。でも、わかったのよ。舞さんの居場所が。不思議ね。」 千聖は上品な仕草で、私の横にそっと腰をおろした。 「もうみんなに話したの?」 「いいえ。私からは何も。皆さんとお話するよりも、私は舞さんを探したかったから。ベリーズのみなさんには、舞美さんたちがご説明をしてくださるみたい。」 「千聖・・・・・」 一人になりたい。でも誰かそばにいてほしい。 そんな私の矛盾した気持ちに、千聖だけは気づいてくれたんだ。 私はまた、無意識に千聖の手首を掴んでいた。 「ここにいて。」 「ええ。」 「舞のそばにいて。」 「ええ。」 千聖は手首を握る私の手の上にそっと手を重ねた。私はまだ空いている方の手で、ゆっくりと千聖の顔に触れた。 「くすぐったいわ。」 長いまつげ、あったかいほっぺた、丸い鼻、形のいい唇。 私の指先が私の心に、この人は岡井千聖なんだと伝えてくる。 “舞ちゃん。” “舞さん。” 前の千聖と、今の千聖の笑顔が、頭の中でゆっくりと重なっていく。 私は千聖の手を取った。 そのまま、2人の手を千聖の胸に押し当てた。 「ごめんね。千聖、ごめんね。前の千聖の心も、ちゃんとここに入っているのに。私はわかっていたのに、認めたくなかった。・・・・いなくならないで、千聖。」 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -